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京都地方裁判所 昭和31年(行モ)3号 決定

申立人 島谷光一

被申立人 京都府公安委員会

主文

本件申立を却下する。

理由

申立代理人は、被申立人が昭和三十一年七月九日風俗営業取締法第四条の規定により申立人に対してなした「申立人の営業を昭和三十一年七月十二日から同年八月五日まで二十五日間停止する行政処分」の執行を、当裁判所昭和三十一年(行)第一〇号営業停止決定取消請求事件の判決があるまで停止するとの裁判を求める旨申立て、その理由の要旨は、申立人は被申立人の許可を受けて貸席を営む者であるが、被申立人は昭和三十一年七月五日京都府警察本部会議室において、申立人に対し、申立人が別表記載の日時、場所において、別表記載の女給を別表記載のように供給又は募集したので、申立人に職業安定法第六十三条第二号に該当する行為があるとして、風俗営業取締法第五条に則り聴問を行い、その結果、貸席を営む申立人が当該営業に関し法令に違反する行為をしたとして風俗営業取締法第四条により申立の趣旨記載のとおり申立人の営業を二十五日間停止する旨の行政処分をなした。しかしながら、別表のうち、(1)(2)(3)の行為は京都地方検察庁において犯罪の証明不充分として不起訴になつたものであるから、これをもつて風俗営業取締法第四条にいわゆる法令等に違反するものと断定して聴問に付したのは違法であり、別表の(4)(5)の行為のみが聴問に付するに値するにすぎない。被申立人のなした右営業停止期間は、別表の(1)乃至(5)の行為が総て聴問に付するに値するという誤つた根拠に基くものであり、又時局に便乗し応報的責任追求の意図のもとに決定されたもので、違法である。被申立人が営業停止処分をした当時の申立人方の従業員(女給)は五名であり、一日の平均収入としては約五千円であるが、一割は税金五分は仲居の手数料として天引されるので、残額を申立人及び女給で分配すれば申立人の一日の平均収入は約二千円であり、二十五日間の長期間の営業停止は家族の生存を危殆に陥れ一家離散の已むなきに至るは火を見るより明らかである。そこで、申立人は以上を理由として被申立人を被告とし京都地方裁判所に本件行政処分の取消を訴求しているが(同裁判所昭和三十一年(行)第一〇号)、右判決があるまで、営業停止の儘放置されるならば申立人は償うことのできない損害を蒙るので右損害を避けるため緊急の必要があるから、本件行政処分の執行停止を求めるため本申立に及んだ、というにあるが、申立人の疎明の程度では、右営業停止処分の執行によつて行政事件訴訟特例法第十条第二項にいわゆる償うことのできない損害が生ずるとは認め難いから、右処分の執行の停止を求める本件申立は理由がない。よつて本件申立を却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 山口友吉 中島恒 林修)

(別表省略)

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